鉄道と旅 1970s
日本半周撮り鉄の旅へ/1970年3月21日−31日 [呉線]
 私にとっての最大の「撮り鉄」旅行,日本列島を約半周してのSL撮影旅行に出かけていきました.はじめは北の方面だけにしようと考えていたのですが,呉線がこの年の秋には完全電化されると聞いては,もう居ても立ってもいられません.北へ行く前に,方向は全く逆ですが,呉線に立ち寄って,大型SLの最後の勇姿をカメラに収めておこうと考えました.これからの何回かのシリーズは,この広島県から北海道に至る,各地の(といってもほとんどが移動で,立ち寄ったところは多くはありませんが)SLを紹介していきたいと思います.


◆◆◆ ネオパンFの功罪

 本題に入る前に,ちょっと脇道にそれます.

 この旅行では,一部を除いて,フィルムにネオパンFを使いました.これはASA(ISO)32という,低感度のフィルムです.通常のネオパンSSはASA100ですから,かなり低感度ですね.でも,非常に微粒子で,ネオパンSSで撮った写真をスタンダードTVとしますと,ネオパンFで撮った写真はハイビジョンTV画面を見ているような感じになるほど,精細に写ります.ちょうどこの旅行に行く時期に,このフィルムに魅せられていました.鉄道写真は動く被写体ですから,本当は感度の高いフィルムでシャッター速度を上げた方が有利なのです.でも,この精細な画面に惚れてしまって,これを持っていきました.幸い,北の地方はこの時期まだ雪が残っていて,結構外は明るく,シャッター速度の低下にはあまり悩まされませんでした.

 しかしながら,です.このネオパンFというフィルムは,非常にコントラストが強く,硬調に仕上がります.そのフィルムで,真っ白な雪の中を走る真っ黒なSLを撮影したものですから,プリント仕上げがほとんどうまくいきませんでした.軟調の印画紙を使っても,雪景色の階調を出そうとするとSLが真っ黒になり,SLの階調を出そうとすると雪景色が白く飛んでしまいます.結局,旅行が終わって,自宅で十数枚を焼き付けて,がっかりしてしまいました.あのときの落胆は,今でも忘れません.ネガにはくっきりとした階調が写し出されているのに,ポジにするとそれが表現できないのです.結局,多くの写真が印画紙に焼き付けられることなく,今日まで眠っていました.

 ところが,写真がデジタル処理できる今日,この悩みは大きく改善されました.この硬調のネガが,デジタル化して画像ソフトで処理することによって,景色もSLも,白飛びも黒つぶれも派手に起こさず表現できるようになりました.こうなってくるとネオパンFの微粒子性の威力が発揮されます.

 今回紹介する写真は,かなり細部までくっきりとしたものが多いと感じられると思います.このブログで紹介する今このとき,ネオパンFで撮っていて良かったと初めて思いました.腕は下手ですので写真そのものはたいしたものはありませんが,その微粒子による細部のディティール感をぜひ味わってみてください.

▲雪景色の中のC12 69.コントラストの強いネガと,デジタル処理による軟調仕上げ.ネオパンF.
◆◆◆ 旅行の切符

 さて,話を本題に戻しましょう.

 この長期旅行は,呉線の往復は普通の切符で,北の方へは道南均一周遊券を使いました.この時代,3月末までの冬季の道南周遊券は,学割を使うと,たしか7500円程度で買えたと思います.行き帰りは日本海側の路線でも太平洋側の路線でもよく,途中下車も自由です.つまり,道南均一周遊券を使うと,大阪から北陸線・羽越線を通って北海道に渡り,北海道から奥羽本線・東北本線を通って東京経由で大阪に戻れます.つまり旅費はこれだけで,通り道のSLを撮影できることになります.

 あと宿泊はユースホステルと車中泊を利用すれば,お年玉を貯めておけば十分に旅行資金が貯まるという,ある意味よき時代であったように思います.


◆◆◆ いざ呉線へ

 呉線へは,303列車急行音戸2号を使いました.これは夜行で,三宮0:14発です.呉線ではC62の引く急行安芸が有名でしたが,同じくこの呉線経由の音戸もC62が引いていました.でも早朝に呉線を通り広島に着くので,あまり多くは撮影はされていないと思います.私の乗った音戸2号は,広駅へ5:59に着きました.さて,活動開始です.まずはダイヤグラムでじっくり検討です(といっても出発前に飽きるほど見ているのですがね).このダイヤの6時台に303列車が出ています.


▲呉線の当時のダイヤグラムを復元した(画像をクリックすれば実物大になります).
  急行音戸2号 303レ/C62,C59.
  急行安芸 37レ,38レ/C62,C59.
  広−広島間旅客 921レ,922レ,923レ,924レ,925レ,926レ,927レ,929レ/C62,C59,D51.
  糸崎−広島間旅客 621レ,622レ,623レ,624レ,626レ/C62,C59.
  荷物列車 42レ,1043レ/C62,C59.
  貨物列車 671レ,673レ,674レ,675レ,676レ/D51.
 これを見て分かるように,朝方,広駅から広島へ向かうSL列車が連続しています.これを撮影するには,音戸2号がぴったりだということがお分かりでしょう.広駅に降り立って早速行動開始です.まずは自らの列車を引いてきたC62 15の記念撮影をしました.

▲303レ,急行音戸2号.広駅にて.1970.3.21.
 広駅にはC62も止まっていました.これらのC62には,その後に出会うはずです.

▲広駅で出発を待つC62 17,C62 23.これらとはこのあとで出会うことになる.